✕✕✕✕/✕✕/✕✕
今日から記録を残そうと思う。
なぜなら、僕の弟である■■が、医者から余命宣告を受けたからだ。
■■は僕の唯一の家族だ。
日々の思い出を忘れないように。
■■がいなくなったあとも、僕が■■のことを忘れないように。
そのために残しておこうと思う。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
僕の家にはアンドロイドがいる。
まだプロトタイプだが、家事や掃除など基本的なことは大抵こなせる。
人間と話すことにも支障はない。
我ながら、なかなか良い出来だと思っている。
■■もプロトタイプを友達のように慕っている。
僕が研究で家を空けている間も、ずっと■■の傍にいてくれる。
僕らのことには一切目もくれず、研究に明け暮れた上、早死にした母。
幼い僕らを置いて、どこかへ姿を眩ました父。
今更、あの二人に思い入れはない。
だが、生きていく上で近くに頼りにできる人間がいない心細さを、僕はよく知っている。
■■には、そんな思いをさせたくなかった。
だから、研究で度々外出しなければならない僕の代わりに、四六時中付き添ってくれる「友達」を作った。
見た目は■■の案だ。
天使のような姿をしている。
なぜ天使なのかと聞いたら、
「ぼくがお空に行っても、ずっと一緒にいてくれるから」
と言っていた。
■■が死後というものをどう考えているのか、僕には分からない。
けれど、偽物の天使でも■■に付き添ってくれるのなら。
安心して■■を託せると思った。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
プロトタイプに料理を作ってもらい、■■と一緒に食べた。
僕の料理とは違って美味しい。
■■も喜んで食べていた。
■■が笑う。
プロトタイプも笑う。
それを見ている僕も、少しだけ安心した。
こんな日が、ずっと続けばいいと思った。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
僕は最近、■■に隠れて準備をしている。
アンドロイドに人間の意識を移す─そういったものだ。
もちろん、そんなことを■■に話すつもりはない。
倫理的に許されることではない。
■■がいなくなってしまう前に、何かできることがあるのなら。
僕はそれに縋りたかった。
だから、誰にも知られないように少しずつ準備を進めている。
研究所の奥に、■■のためのアンドロイドを一体。
完成にはもう少しかかる。
■■の身体が限界を迎える前に間に合わせたい。
……間に合わせなければならない。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
他所に出向いている時、プロトタイプから知らせが来た。
■■が倒れた、と。
僕はすぐに家へ戻った。
しかし、遅かった。
■■は息絶えていた。
それからの記憶がない。
まだ一緒にいてほしい。
唯一の血のつながった人に。
そう、だから、
だから、作っていたのに。
……間に合わなかった。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
僕は逃げた。
全てを放棄した。
プロトタイプも。
研究所も。
■■のために作っていたものも。
全部置いて行った。
死んでしまいたい。
■■がいないのなら、何も意味がない。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
結局、死にきれずに戻ってきた。
そこには信じがたい光景があった。
まず、研究所の天井が破壊されていた。
中が滅茶苦茶になっている。
何があった。
そして。
動くはずのないアンドロイドが動いていた。
それは■■を模したもの。
ひそかに作っていた、■■のための器だった。
■■の意識を移すために作っていたもの。
箱の中に入れて、眠らせたはずだった。
なのに、動いている。
しかも、記憶とは違った奇妙な髪色をしている。
隣ではプロトタイプが、なんとも言えない顔をしていた。
……お前、何か知っているな。
そう思ったが、プロトタイプは僕と目を合わせようとしない。
奇妙なアンドロイドは僕を見るなり、ぱっと顔を明るくした。
「はじめまして」
そう言った。
声は■■に似ていた。
というか、一緒だ。
■■から録音したものを使ったのだから当然だ。
やめてくれ。
その姿と声で話しかけないでくれ。
僕は、そいつが■■ではないことを知っている。
それなのに、■■と同じ姿をしている。
「……お前は誰だ」
そう聞いた。
そいつは少し考えてから、
「ぼくは宇宙から来たの!」
と答えた。
……どうやら、悪い夢を見ているようだ。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
プロトタイプに聞いてみた。
だが、僕には口を利かない。
「……迷子だから拾っただけだよ」
それだけ言って、どこかへ行ってしまった。
何が起こったんだ。
調べることにした。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
色々調べているうちに、少しずつ分かってきた。
あのアンドロイドには、何かが入り込んでいる。
正確には、寄生……という言葉が一番近いのかもしれない。
アイツには睡眠という概念があるらしい。
昨晩、眠っているうちに身体を調べようとした。
中を開こうとしたところで、謎の触手に襲われた。
死ぬかと思った。
あれはアンドロイドに備わっている機能ではない。
少なくとも、僕はあんなものを作った覚えはない。
宇宙から来た生命体。
本人が無邪気に話していた。
この星に来る途中で迷子になったらしい。
そして、偶然ここに降ってきた。
ただ、重要なことはあまり覚えていないらしい。
自分がどこから来たのか。
どうしてここへ来たのか。
なぜこの身体に入ったのか。
ほとんど何も分かっていない。
しかし、本人はその身体を自分自身のものだと思っている節がある。
■■ではない誰かが、■■の姿をしている。
気に入らない。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
奴をアンドロイドから追い出そうとした。
何度か試したが、上手くいかなかった。
身体の中にいる何かが、僕を攻撃してくる。
どうやら意思を持って攻撃しているわけではないらしい。
宿主を守ろうとする、本能のようなものだろう。
……それにしても、危うく死ぬところだった。
もう二度とやらない。
たぶん。
…………もう疲れた。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
鬱陶しい奴が、
「ここにいてもいい?」
と聞いてきた。
僕は答えなかった。
しばらく黙っていると、
「だめ?」
と、また聞いてきた。
……ずるい。
その顔でそんなことを言うな。
結局、追い出せなかった。
僕自身、これ以上何かやる気力すらないのだから。
しばらくはここに置いておく。
別に受け入れたわけではない。
■■の代わりだと思っているわけでもない。
ただ、行く場所がないというなら。
ここにいればいい。
それだけだ。
✕✕✕✕/✕✕/✕✕
今日、奴がプロトタイプと一緒に料理を作っていた。
奴も食事ができるらしい。
ボディはそう作った覚えはないのだが。
……あの身体の中にいる生命体が何かしているのだろう。
味は、まあまあだった。
■■が好きだった料理だった。
「これ、おいしいね」
と奴が言った。
僕は何も答えなかった。
でも、久しぶりに誰かと食卓を囲んだ気がした。